日常的視界には、見えないものを描いてきました。それはある日の空気、温度や湿度であったり、海や川、風の音。樹木や花の香り。遠い記憶や今はすでに無になってしまった、家や山や丘や生き物であったりします。もしかしたら、それは絵画の中の旅で、地図のない、私が歩くたびにできる足跡が軌跡となって、ひとつひとつの作品として現出してくるものだと考えています。庭に咲く椿も、私の幼年時代には、あったような、なかったような、記憶すらさだかではありませんが、その場所の「気」だけが、私の絵の中で再生できればと願っています
三瓶初美
二年前に三瓶さんの作品と出会いました。その後、何度も東京から訪ねてこられこの個展を準備されました。属さず、頼らず、籠らず、海外へも厭わず、内省と努力 を惜しまない。作品にもそうした作家の特質がよく現れています。濃藍色を基調に白、墨、鼠などで少しの哀しみを孕んだ複雑にして豊かなニュアンスを与えられ、そこに強くもなく、弱くもない、しなやかな線が浮かび漂います。「雨」に抱かれ、三瓶のゆったりとした深い呼吸に私たちも誘われるのです。
島田 誠
◆1F deuxにて 12:00~16:00
※火曜日は~18:00、最終日は~17:00まで。