大作に挑み続けて40年。神戸は歴史の浅い街、路地裏に小品的要素はあるものの、大作には不適なモチーフであるが故に、山海街を構造体の要素としてとらえ、再構築を試みてきました。この間エスキースとして小品を手掛けることはあっても、小品を目的とすることはありませんでした。今回ギャラリー島田の「トロワ」で展示の機会を与えられ、思い切って小品に的をしぼって描いてみようと決心しました。神戸に移り住んで70年、なれ親しんだ日常の風景は年をとるにつれ、愛しく、惜別の感情がつのるものです。
これを絵にしたい。各所でそれらを見る作者、私の感情を共有していただけたら幸いです。
山頭火の「うしろすがたのしぐれてゆくか」という句が好きです。姿を見るのではなく、姿を見る人の姿を見て欲しい心境ですが、技が伴わなければ、むずかしいことだとおもいます。
桑畑佳主巳

素顔の神戸
縁あって、学生の頃からの桑畑佳主巳ファンだ。前回の個展では、神戸を描いた大作を味わった。桑畑というフィルターを通して再構築された街。他では見られない神戸として、静謐な美しさと凄味を放っていた。
今回は、小品である。多くを詰めこむのではなく、切り取ることによって、前後の時間や描かれていない風景までをも想像させる。これは短歌と同じ手法だ。私はすっかり虜になった。どの作品にも、温かな人の気配と柔らかな風が感じられる。深い愛情に満ちた眼差しが伝わってくる。素顔の神戸だ。大作に対峙するにはエネルギーがいるが、穏やかな表情の小品たちは心をくつろがせ、たっぷりのエネルギーを与えてくれる。
歌人 俵万智

神戸を愛する画家、桑畑佳主巳と長く付き合ってきた。独学、晩成で二紀会に属しながら近代都市神戸の光と影を主題とした大作で挑んできた。その頃に桑畑が描いた神戸を「光に浮かぶ都市」と評し、整然と格子状に並ぶ現代都市神戸の街を「歴史的空虚にめまいする。街の底にすぐ古代の大地が透ける。だが空虚も美しい在り方の一つだ」と評したのは山本忠勝(「坂の上の作家たち」から)。
桑畑はこうした故郷喪失者が作った街の精神に触れてきた。今やそれを愛おしむ眼差しと振る舞いで心に届いたものをそっと差し出す。神戸への深い愛が滲む。
島田誠

会場:1F trois
会期:2020年4月4日(土)- 4月15日(水)11:00-18:00
※最終日は16:00まで