幼いころの絵日記が、いつしか写真日記に変わり、その延長線上に作品がある。自分の人生において日々込み上げてくる感情を吐き出したくて、あたかも聖なる儀式のようにカメラと対峙してきた。

沈黙の長い歳月を経て、自身の疲弊した心身の重みに耐えかね、再びカメラの前に押し出された。今ここにある現実という暗闇の「向こう側」に惹かれつつ、行きつ戻りつ苦悩しながら、そのあわいに身を委ね、鈍色に覆われた青い闇を彷徨う。

神戸に暮らし阪神・淡路大震災を経験した私のなかに、地を揺るがしたあの出来事が現在に至るまで何らかの影を落としていることは否定できない。近年も各地で頻発する地震や台風の被害を見るにつけ、それがあの震災の記憶と重なって喪失感が増し、自分のなかの空虚さを埋めきれなくなってくる。また、女性としての老い、病、ストレス、ハラスメント、親しい人の死など、誰にも降りかかる可能性のある様々な問題が、この闇のなかに渦巻いている。作品の直接の契機となったのは、こうした個人的な問題だけれど、この世界に生きる人たちが共通して抱える悩みや問題にも、きっとどこかで通じると信じている。

なかなか作品として結実することなく空白が続き、生きる意味が見えにくくなっていた歳月も、かえって現在の作品作りを促す力となっている。流れ行く日々の断片が、また別の断片と結び合い、新たな意味を帯びて立ち現れる。「向こう側」と現実との境界に身を置き、光の射す方へ少しでも近づくことを願いながら、私はこれからもシャッターを押し続けるのだと思う。
小谷泰子


小谷泰子の自写像との出会いは25年前の震災からである。「兵庫アートウィーク・イン東京地震のあと生まれた芸術」(1997:新宿パークタワーギャラリー)をプロデュースし、「現代美術作家選抜展ー潮風・アート」を同年、海文堂ギャラリーで開催した。その後も「震災と表現」に関連して小谷作品と出会ってきた。

画家にとって自画像は自身に向き合うという行為において日常のなかのクレバスに落ち込むような体験であり大切なジャンルだ。小谷の「自写像」は自身の裸像を自撮りし、体験してきたあらゆる思考や感情が複雑にからみあいながら生きることの生々しさが静謐な世界に沈積していく。

「青の断片」から長い沈黙をへた今回の「青い闇」へ。刊行された「Blue Darkness Yasuko Kotani」(赤々舎)を繰り返し見ながら断絶が伝える雄弁さにも圧倒される思いがした。
是非、ご覧いただきたくお願いいたします。
島田誠

「本展は、開催を延期とさせていただきます。新しい会期は改めてお知らせいたします。」

◆ 3月17日(火)18:00~
ギャラリートーク 小谷泰子×池上司 (西宮市大谷記念美術館学芸員)
要予約・無料

会場:1F deux & trois
会期:2020年3月7日(土)- 18日(水)11:00-18:00 ※最終日は16:00まで