藤崎孝敏の油彩を特徴づけるのは、沈黙を破って展開し、また深い沈黙に還る闇と光の相克だ。奔放なタッチで描かれるその人物画、風景画、静物画は、闇から生まれる光の情動のように思われる。闇は画家の炎える内面そのものであり、そこから沈黙を破って、光を求めて外部へ向かおうとする形象こそ、藤崎孝敏の油彩世界といってよいだろう。藤崎孝敏の画面空間には、ことばにならないことばが隠され、うごめいている。私はそれを"魂の彷徨"と呼びたい。
ワシオトシヒコ「存在の本質に迫る光と闇」(画集『CAUVIN』より)

藤崎孝敏の魔性
底知れない闇の中からかすかに仄見える光。
明日なき人々が一縷につなぐ命。
猥雑なパリの街ピガールの15年来の住人として彼らの友として生き、彼らをモデルとした藤崎孝敏の抗い難い魔性の魅力は、この街の魔性と重なる。
多くの日本人の画家がパリの魅力に取り憑かれ、ここに住み、ここで描いたが、氏のようにピガールの住民そのものとして暮し、彼らと心を通わせて描いた画家はいない。
氏の絵が、ぼくらの心を深く動かして止まないのは、人間存在の真実を見るからにほかならない。そのような絵を真っ直ぐに描く画家は稀有なのである。島田誠(2001年の個展の案内状より)

何処までも暗い画面に浮かび上がる貧しい人々や悲痛で過酷な運命を背負い、放心し、何かに憑かれたような表情。
ひりひりと心が痛み、触っただけで血が吹き出すような画肌。何気なくおかれた部屋の隅の酒瓶や香水瓶にすら、ただならぬ画家の魂のありように見える凄さ。そして哀しみに満ちた人々の中に聖なる永遠性が宿る。
身の置き所のない日本の画壇を捨ててパリ・ピガール界隈にアトリエを構え、下町の人々と交流し、自らの創造主のみを信じて暮らす。
彼の絵は、そのような中でしか描きようがなく、そしてそのように生きることは至難なのである。
その生き方、考え方、そして制作のすべてにおいて謎めき、ドストエフスキー的真実とアルバンベルグ的現代性を合わせもつ。
こうした魅力ある画家がまだ存在していた稀有を驚きまた喜びたい。
島田誠 -’99個展 案内状より-

会場:B1 un
会期:2020年2月8日(土)- 19日(水) 11:00-18:00
※最終日は16:00まで