16-03 井上よう子

「人」の存在のはかなさ、切なさ、温かさを、風景として描き続けてきました。
そんな私に、「人」の生き方を深く問い、寄り添う小説を描き続けられてきた直木賞作家、同い年の白石一文さんから有り難くも依頼を受け、1昨年10月からスタートした新聞連載小説挿絵の仕事。
連載小説の挿絵は、まず小説家の「作品」が在り、それを絵に表現するわけで、小説家が構築しイメージした世界を壊すことないようにを一番に思いながら、自分を選んでもらった意味も考え、井上よう子が描く意味ある挿絵にと何度も読み込み自分なりに解釈、説明的になりすぎず読者が想像を広げられるように・・少し意訳になってもモチーフに意味があり、描き方に変化持たせながら、さらっと描いたものにも格調があるように・・・毎日祈る思いで描き続けました。
毎日の連載は大変ですねと言われましたが、この壮大なストーリーを生み出す小説家の苦しみに比べれば、自身ファンである白石一文さんの深い小説世界に読者より先に浸りながらひたすら描く時間は、寝る時間は無くなっても至福の時でした。
そして、人の「記憶」というものについて、横浜トリエンナーレ他アートの世界でも現実社会でも科学的分析も含め、今、あらためて注目されてきている波を感じ、それについて以前から温めて来られた白石さんに、これからの創作の課題を頂いた気がしています。
有り難くも地階と1階と2フロア全てを使わせていただく今回の個展、その挿絵全342枚の約半分前半分と、記憶の海を遠望する120号大作など新作タブロー10数点を、是非ご高覧下さい。
井上よう子

海文堂ギャラリーで井上さんの初企画個展は1991年。そして今回の個展は12回目となる。デビューの時からアンドリュー・ワイエスを思わせる気品のある描写力と遠くを夢見るような余韻のある画面に十分な才能を感じた。

その風景はリリシズムに溢れ、眩しすぎる陽光と透明な空気。しかし、これは単なる懐かしい情景ではない。
深く傷つくことを知った人、深く愛する孤独を知った人が流れゆく時を瞬時に切り取ってみせる“永遠の断片”なのだ。
この個展が彼女の画家としての「出航(たびだち)」を飾るものだ。(初個展に島田が寄せた言葉)

井上作品の根底にある二つの特徴は、青=ブルーへの拘りと、どこ にも緩みのない凜とした完成度にある。命 あるものは必ず逝く。
その哀切を抱きながら人は生きる。しかし、また命は形を変えて再生する。作品に漂う「不在」の 気配は、自らの慰藉を超えてやがて、存在への感謝へと転化されていく。
2002年の「天国に近い場所〜and he has gone」を機に、井上は、若き日の「For ・・・From・・・」から、新しく「The way to Bright Ocean」などの世界へ自らの体験を超え、靄(もや)の中から抽出された「道=希望」を見つめるようになる。2005年シスメックス・ソリューションセンターの壁画「海・光・風」(3m×92cm)がその結実でした。
2008年には第一線で活躍する女性画家に送られる亀高 文子記念——赤艸社賞.を受賞、企業や学校などのアート・プロジェクト、ホスピタル・アートなどにもたびたび選ばれ二度、デンマークにも渡った。
そして後藤正治(ノンクション作家)の表紙装画、白石一文(直木賞作家)の挿絵をへて新聞連載小説「記憶の渚にて」(342回)のリアルな体験が否応なしに井上よう子の世界を拡げ、作品に強度を与えた。心の旅路をご覧いただければうれしい。
島田 誠

B1F&1F deux 2016年 3/19(土) 〜 3/30(水)12:00〜19:00
*火曜日は 〜18:00、最終日は 〜17:00