2013.8「学童疎開の記録」

宮地孝(故人)さんが神戸大空襲(1945年)の直前の神戸の学童疎開の情景を丹念に描いた27枚のスケッチを15年ほど前に沼田かずゑさんから託された。疎開先は加古川・清久寺、教信寺、常楽寺、赤穂・妙典寺、姫路・円光寺です。その貴重な記録を新しく額装し、「コープこうべ文化資料センター」へ寄贈して展覧会をして頂くこととなりました。六甲学生青年センターの飛田雄一館長、「神戸大空襲を記録する会」の中田政子会長にも協力していただきます。なぜ、もっと早く気付くべきであったと自分を責めています。展覧会をして披露するだけであれば簡単なことです。でも、きっちりと残していくことが必要だったのです。何故、「コープこうべ文化資料センター」なのか。阪神淡路大震災の時に「アートエイド神戸」という活動をしていました。その時に画家の長尾和さんが被災地を歩いて残した水彩画25点と、ここから生まれた「詩集・阪神淡路大震災」から選んだ詩25篇で「鎮魂と再生のために」という詩画集を刊行し、東京、釧路、福岡をはじめ各地で展覧会を開催し、それらを「コープこうべ」へ寄贈し、毎年のように1月17日をはさんで展覧されてきました。思えば阪神淡路大震災は50年目の戦場神戸と呼ばれました。宮地孝さんの学童疎開の記録は、その神戸大空襲にまつわる貴重な記録ということになります。考えてみれば加川広重「雪に包まれる被災地」に関わっていることも何かの導きで私が選ばれているということかもしれません。この絵には疎開地である加古川、姫路のお寺の名前、日付、子どもたちの名前まで書かれています。ご存命であれば80才前でしょうか。優しい眼差しで疎開の日々が、丁寧な筆致で描かれています。ここから、数々の物語が紡ぎだされていくことが想像されます。

※宮地孝「学童疎開の記録」展 7月23日(水)~8月17日(土)10:00~17:00
コープこうべ生活文化センター1階展示コーナー(住吉)

アートの力

大学で話(講義)をさせていただく機会が続いている。これが、結構、負担で苦しむ。自分の話など役に立つのかと自問し、毎回、考えあぐねながら臨んでいる。私の体験などまことに間口が狭く、且つ特殊である。ことごとく常識はずれである。言ってみれば「生き方」について語り、若い人を挑発しているだけのことだ。それゆえに熱っぽい話になる。しかし、学生はなべて音無しである。みんなどう感じているのか不安になる。でも課題レポートを読むと、伝わったかなと安堵もする。街で若いカップルに「島田さんですね。講義受けました」と声がかかったり、ギャラリーのオープニングに顔を出した人もいる。6月の講義が終わったときに、「なぜアートが必要なのか問われたときに答えられる文を教えてください」と個人的に話しかけた学生がいた。私は次の講義のときに、伊津野雄二作品集(9月刊行予定)のために書いた「大切なものはここに」をコピーして渡したが、そのあと手にした中川眞さんの「アートの力」こそが推薦すべき本であった。ご本人に「美の散歩道」への寄稿をお願いした。

複眼で見る

今よりも明日、片目で「現実」、もう一方で「理想」を見ることを心がけてきた。ところが現実を見る左目が、あまりにひどい現実を凝視しすぎてひどい乱視になり、眼の不調が続いている。そういえば私の好きな松本竣介(1912~1945)の「立てる像」の両瞳が左右別々の方向に向かっていることを林哲夫さん(注1)が「帰らざる風景」(みずのわ出版)に書いている。
これは歌舞伎で謂う「天地眼」で、魔を調伏し煩悩を焼き尽くすことで修業者を助ける不動明王の眼相「日月眼」で、超越的な力を発現させる表情だと林さんは言う。竣介の眼が《少々、明後日の方向を向いていても》、竣介の混沌とした新世界像を完成させるという目標と対応する実践の試みの発現であり、私の複眼と重なる。
竣介が昭和16年(1941年)に軍部に抗議して書いた「生きている画家」は開戦直前である。その冒頭で「沈黙することは賢い、けれど今ただ沈黙することが凡てにおいて正しい、のではないと信じる」と書く。こうした竣介の言説が果たして抵抗であったのか、なかったのか。林さんの論はまことに刺激的である。 林さんの「帰らざる風景」は洲之内徹(注2)の「帰りたい風景―きまぐれ美術館」を踏まえた林さんの洲之内徹論であり、神格化された洲之内徹を批判を恐れず論じていて面白い。林哲夫さんと、洲之内徹さんと最後まで行動をともにした木下晋(鉛筆画家)をお招きして、お話しいただく機会を持ちます。(注3) 松本竣介は脳脊髄膜炎13才で聴覚を失い、西村功は悪性中耳炎で3才で聴覚を失っている。私は二つの美術館での西村功展に関わり、1945年、竣介は家族を疎開させ、宮地孝は学童疎開を描き、私はその宮地作品の公開に関わっている。
縁の不思議を思わずにおれない。

(注1)林哲夫展  2013年10月5日(土)~ 16日(水)  B1F
(注2)洲之内徹  1913年1月17日 – 1987年10月28日
(注3)洲之内徹とギャラリー島田コレクション展 2013年9月21日~10月2日
    関連サロン 木下晋・林哲夫が語る洲之内徹 9月21日(土)17:00~
東北へ行ってきます

加川広重巨大絵画プロジェクトが再び神戸で開催されます。大きな反響をいただいた“「雪に包まれる被災地」が繋ぐ東北と神戸”は、市の意向で神戸に留めおかれ、県の意向で、なんらかの助成を受けることになりました。二番煎じは、やりたくありません。“そこから生まれるもの”が大切だと思います。当初は「神戸ビエンナーレ」に合わせてということでしたが会場の都合で駄目になり(かえって良かったのですが)、2014年1月5日~17日に開催されることとなりました。 次回には

「雪に包まれる被災地」に続く大作「南三陸の黄金」を展示し、二つの作品に囲まれる会場となります。
1月17日を最終日としますので、まさに「1・17」と「3・11」を繋ぐ大きな意義を担うものとします。
準備の時間が十分にありますので、二つの作品に触発されるダンス、詩、演劇、音楽、シンポジウム、国際交流、  東北志縁、減災思想など、多彩な企画を計画したいと思います。
「アートの力」が繋ぐ東北と神戸の象徴的な場であり装置でありたいですね。