2012.06 農夫のように

農夫のように

毎日、日の出とともに起き、日の入りとともに眠りにつく。といっても22:00から23:00頃ですが。まるで農夫のように。考えてみれば、わたしがやっていることそのものが、農業みたいなものです。ギヤラリーの仕事や財団のこと、すべてが草の根的です。赤坂憲雄さんが、東北へ入って、こつこつとフィールドワーク(聞き書き)を重ねてこられたことを「農夫としての仕事」と、どこかで触れられていた。
私がよく使う言葉に
「播かれた種」が育ち、大地で根付き、「散水装置」によって緑の大地を蘇らせる とか、『復興』とは、『新生=新しい地への生まれ変わり』があります。
「文化=カルチャー」という意味は、耕された(cult)もの(ure)=精神の耕作と
いうことで、薄っぺらな文化人などという呼称ではいけないのです。

豊かな実りの時に

ギャラリーとしての種まきの季節はほぼ20年前のように思います。その頃に出会った作家たちが、また文化支援の活動が、今、花咲き乱れはじめていることを実感できるのはうれしい。受賞し、美術館で大きな展覧会を実現させ、画集を出し、挿絵、表紙絵、装画を担当し、TV、ラジオに出演し、海外へ滞在するなど作家達の活動は多彩です。皆さんいい仕事へと向かっています。私たちの姿勢は、社会や地域に関わりながら、表現に関わる人がすべて自らの生を豊かに生き抜く、そのためにこそ美に関わるものとしての心縁を静かにつないでいく役割を果たすことにあります。少しずつその実りを感ずることが出来る日々を歩んでいるようになってきました。

岡本太郎の見た日本

震災を契機として、私は衝撃といってもいいほどの実に多くの学びをさせていただいています。東北にについては何も知らなかった、その東北を知りはじめて、実は日本という風土についても深くは考えてもいなかったことを知りました。その導きの多くは赤坂憲雄さんに依るものです。「岡本太郎の見た日本」(岩波書店)は2007年に出版されたものですが岡本太郎の滾(たぎ)る情熱と、それに赤坂の魂が共振して、こちらも揺さぶられます。気になったところを引用すれば、膨大になってしまいます。

芸術は全人間的に生きることだわたしは絵を書くだけの職人にはなりたくない。だから民族学をやったんだ、わたしは職業分化にたいして反対だ。わたしは画家にも彫刻家にもなりたくはなかった、ほんとうは思想家になりたかった(P2から)

太郎を自分のために引用しては僭越の度を越していますが、私も画商、画廊主、ギャラリストなどという職業区分を意識したことはありません。全人間的に生きる、あるがままにあることをこころがけています。ギヤラリーという枠で評価しようとすれば、いろんな礫(つぶて)が飛んできますが、飛んできたところには的がないのです。

3月13日の“文化芸術による復興推進コンソーシアム”設立記念シンポジウム「文化芸術を復興の力に」(東京国立博物館)で赤坂さんとご一緒し、神戸にお招きしたい旨お伝えし、快諾いただきました。7月20日の「東北の復興、日本の明日」という講演会です。

津高和一の渡仏

「東京で津高和一の作品が見られるところはないか」という問い合わせがあった。「フランスのご夫妻が是非、見たいといっておられる、そちらにはあるか」と重ねる。あると答えると、すぐに画像を送って欲しいとのこと。幸い、最近、スタッフの徳田君が在庫の写真撮りをやってくれていて、林さんが素早く対応した。なんと「明日11時に行く」とのこと。慌てて早出して1Fに津高作品をところ狭しと展示してお待ちした。年配の上品なご夫妻で、「パリでギヤラリーもやっている、私はデザイナーだ」と名刺をいただいた。ぼくは全く知りませんでしたが、あとで調べると有名な方でした。2時間ほど見られ、油彩、名塩和紙など、纏めて決めていただきました。パリに渡った津高和一作品。それは生前、先生の望みでもあったのですから、ほんとに良かったですね。

石井一男さんの沖縄
佐喜眞美術館(沖縄)で 2012年6月6日(水)~7月30日(月)まで石井一男展が開催されます。丸木位里・俊の共同制作による 連作『沖縄戦の図』を、常設展示するために佐喜眞道夫夫妻が作った美術館です。もの思う空間で友人の真喜志好一さんが設計したものです。私は木下晋(鉛筆画)さんや、二度にわたる松村光秀展などで5回ほど訪れていますが、いつも深く届く声を全身に感じます。岡本太郎は東北と沖縄に衝撃を受け日本再発見をするのですが、今、私もその両者に繋がっていることを不思議な縁として大切にしたいと思います。

沖縄は、まったく異質な天地なのだ。本土とまるで違っていながら、ある意味ではより日本的である。あの耀く海の色、沖縄の人たちの人間的な肌ざわり。もちろん、あの「沖縄時間」を含めて。本土の一億総小役人みたいな小じんまりとした顔つきにうんざりした人は、沖縄のような透明で自然なふくらみ、その厚みある気配にふれて、自分たちが遠い昔に置き忘れてきた、日本人としての本来の生活感を再発見すべきなのである。「岡本太郎の見た日本」 P216 より

沖縄でお会いしましょう。
展示作品は50~55点。未発表作品も十数点あります。
6月10日(日)の午後3時からオープニング・トークを行います。
石井一男さんと佐喜眞道夫さん、それに私が加わってのトークです。そのあと、館内でパーティーを行います。どなたでも参加できます。ご参加される方は一報下さい。