2012.05 思いは被災者とともに

思いは被災者とともに

阪神淡路大震災の直後に被災者復興支援会議というユニークな組織が兵庫県に生まれ、大車輪に活動した。もう記憶の彼方に消えかかっているが、そのOB会が4月6日にあり、いわば戦友とも呼べる面々と懐かしく再会した。
被災者復興支援会議とは、様々な分野から10名選ばれて復興に関わることを議論、それに県のプロジェクトチームが15名ほどスタッフとして加わった。
1995年7月17日にスタートし私は文化の分野で指名された。
このころ既に岩波新書に過激な行政批判を展開して、のちに神戸市から完全に遠ざけられる因をなしていたのに、よく県は私を選んだものだ。
この会は「関東大震災の時に被災者復興に尽力した賀川豊彦さんのように困難な状況にある被災者の心のよりどころとなる存在として」貝原知事(当時)が発案した。
県の事務局が用意した決まりごと二つは「先生と呼ばない」「事前になんの案ももたない」。 これは従来の行政が用意する審議会、委員会の枠を完全に超えていて痛快であった。
そこで、熱く、なんの遠慮もなく、口角泡を飛ばし、紅潮して議論した。でも「思いは被災者にあり」で、感情的なしこりは残さなかったのは見事だった。
県のメンバーは一応にカルチャーショックを受けたという。
ここでは、みんながフラットであり、領域を超え、利害を超えた、一つの理想的なディベートの場でありえた。

「事実は現場にこそある」

被災者一人ひとりの生活復興を支援するため、被災者と行政の間に立つ第三者機関として、被災者に軸足を置き、「事実は現場にこそある」と現場に出向き、問題をリアルに捉えて13回の政策提言を行った。
私は1999年3月までの40ヶ月間。その間に全体会議は78回というから、月2回、その間に、移動いどばた会議が143回、フォーラムが61回というから、恐れ入る。
全体会議にはほとんどのメンバーが欠席なし、その他の行動については、手分けして行った。私は100回は出席していると思う。

鎮魂の碑・希望の礎

「復興」「絆」という言葉があまりにも氾濫し、軽く使われているのに違和感がある。
東北にはいまだ、あまりにも多くの悲惨が転がっている。
私は「鎮魂と再生―東日本大震災・東北からの声100」藤原書店刊行(赤坂憲雄:編―編集協力=荒蝦夷)という重い本を持ち歩いている。毎日3人づつの声を聴いている。私が、東北に対して、なにをしたでもない。でも、ただ見た、風を光を、影を、大地を、海を見てきたことにより、肌に触れるように感じて読めるところも多い。常に身近でありたいと思う。 この本の「はしがき」に赤坂憲雄は書く

25年後に、この大震災はどのように語り継がれているのか。広やかに組織される記憶の場こそが、やがて鎮魂の碑となり、未来へと架け渡される希望の礎となるだろう。息の長い戦いが、いま始まろうとしている。

「東北からの声100」は約500Pだが、「大震災・市民篇1995」(長征社)は875P。
震災後ほぼ1年に出版されたことにおいて両者は、ほぼ同じ意図である。
長征社の市山隆次さんは、どうして居られるのだろう。別に語り合ったり、酒を酌み交わしたこともないが、私が北野に移転する時に、申し出て、黙々と荷物の運搬を手伝ってくれた。あの体躯、あの眼光が懐かしい。
赤坂さんが書く“震災のアーカイブスへの指向”を神戸で実践したのが季村敏夫さんだ。
震災後間もない時期からボランティア関連記録を収集していた「震災・活動記録室」の資料を引き継ぎ、’98年3月に発足し、現在に至るまで「瓦版・なまず」を26号発刊、この息の長さにも畏敬に値する。
「震災・活動記録室」の代表が実吉威さんで、現在「市民活動センター神戸」の事務局長で、公益財団法人「神戸文化支援基金」の設立に関わり、事務を担ってくれているのだから縁は円環のように繋がっている。
縁は円環

東北とつながる三つの大切な企画に取り組みます。

■映画試写上映会「今、被災地で起きていること。今、被災地から伝えたいこと」
「被災地再興3・11」と「気球に乗ったオーケストラ」の上映
5月22日(火) 19:00~20:30まで 会費¥1000
ギヤラリー島田の第242回 火曜サロンとして開催します。詳細はサロンのお知らせで。

■シンポジウム 震災後の表現―神戸から東北―
6月17日(日)14:00~17:00
レポート 季村敏夫
映像作品上映 「3・11 TSUNAMI 2011」上映 制作 宮本隆司
シンポジウム 季村敏夫 宮本隆司 細見和之 正津勉(司会)
場:神戸風月堂  参加費:当日1200円 予約1000円(詳細はチラシを)

■赤坂憲雄講演会 「東北の復興・日本の明日」
7月20日(金) 18:30~20:45
第1部 講演 赤坂憲雄
第2部 鼎談 赤坂憲雄 季村敏夫 島田誠
第3部 交流コーナー
場:神戸風月堂  参加費:当日1200円 予約1000円