等身大
後藤正治さんが私の本を評したなかに「不思議な感じを受けた。等身大で書いている」という言葉があった。画廊主が作家を書くのに「褒め上げる」「見下ろす」といった感じがなく、「誇る」「卑下する」といったこともない。長い付き合いだけど「友達として書いているわけでもない」視線が同じというか、自然体というか、等身大。これはうれしい評でした。
永六輔さんのこんな言葉にも出会いました。
ぼくは下町の少年というか等身大のままでいたいとずっと思ってた。ラジオは言葉の調べ。耳に馴染んだ声が、日常の中で今日も変わらぬ安心感を伝える。自分を大きくも小さくも見せない 等身大のメディアだからこそ出来ること。ラジオは言葉で生きる ラジオは日常ですよ。ご飯食べたり寝たりと変わらない位置でラジオをやってますから。
私にとってもアートや、アート・サポートや社会に関わることは、特別なことではなく食事のときに「いただきます」「ごちそうさま」ですという感覚でやっています。
捨て身のヒリヒリ
尊敬する季村敏夫さんが第29回 現代詩花椿賞を受賞されました。「ノミトビヒヨシマルの独言」によるものですが、うちのサロンでも朗読会があり、今年の1・17で竹下景子さんが一編を朗読されました。季村敏夫さんは神戸の文化風土の中では異端(私と同じ)に属しますが、山本健吉文学賞(2005年)小野十三郎賞特別賞(2010年)に続く受賞となりました。
受賞の言葉です。
いま、遠野を拠点として震災復興に向う岩手県をまわっている。受賞の知らせは、遠野を疾駆する銀河鉄道と並走しているとき届けられた。何と呼べばよいのか。喜び、むろんそうなのだが、遠野の闇の向こうの声を感じていた。京都の染織家にいざなわれ、岩手県大槌町の共同作業所、わらび学園など数箇所をまわる試み。野染めや編み物教室に参加していたときだった。
ことばと身振りで、何ごとかを伝え、そのことを通じ、大切な何かをいただいた。こんな思いを抱きしめていた矢先の知らせ。作業所を出るとき、ひとことも発することの出来ないひとが、両目に涙を一杯ためていた。一瞬の出会いと別れを体験したあとの、受賞の知らせだった。
ポエジーということ、詩の行為ということをもう一度総点検、再出発し、遠い向こうまで行こうとふるいたつ旅先だった。
季村さんは、私に受賞を伝える電話では「ひとことも発することの出来ないひとが、両目に涙を一杯ためていた」その女性の姿に号泣したと語り、私たちがいかに汚れた存在であるかを痛感したと続けました。「総点検、再出発」という言葉には根源から言葉を発するという「捨て身のヒリヒリ」を感じました。「捨て身のヒリヒリ」とは南輝子(歌人・画家)さんが私の本を評した言葉でもあります。
遺書を書くように
本の中で卯港さんに私が伝えた言葉です。そして「絵に生きる」は私にとってそのようなものでした。多くの感想が寄せられました。「一気に読んだ」「楽しかった」という反面「何度も本を措いた」「息苦しいまでの切迫感を感じた」と、様々です。
「魂のこもった文」「美しいものを求める血みどろの戦い」「命を削って書くという言葉が印象的。それは『そうでない作家を評価しない』ということでもあり、極めて厳しい」「美術に関わる人間としての原点にいまいちど気づかされた思いがしている」
「合わせて六人の方々の生き様、絵というものの存在意味を考えさせられた。六者六様の歩みが、この本の中で一つになり混沌としている」「仕事そっちのけで読み通してしまいました。島田さんの独特の語り口で聞かせていただいている気がして、読み終わると、しばらく、ぼうっとしてしまいました」
「強烈な個性の画家とつきあう画商の懐の深さを堪能。表現はほんの一部、言葉を生みだすこころの方がはるかに大きい。この大きさが御本を生みだしたこと、そのことを知る喜びに包まれている」
「この本の卓越しているところは、作家を描くことを通して、『時代』とその時代が抱えていた問題や希望や匂いまでもが描かれており、私のようにその時代を知らない者が作家の奥にある『歴史』をうかがい知ることができることです。それと同時に、この歴史をふまえてこの先何を考え、何をすべきなのかの問いがそこかしこに埋め込まれていることです。フィンセントの『君はどうしようというのか?』という問いかけに応えようとする島田さんの姿勢が、この本の底を流れているように思います。だから、1人ではなく5人の作家のストーリーを必要としたのではないでしょうか」
「常に身を削って表現に命を燃焼させている作家、そんな昔風の芸術家たちが今もどこかで人知れず絵に生き、絵を生きていることを忘れてはならない」「島田さんの捨て身のヒリヒリ」
これらの感想は市立、県立、国立の美術館の館長、前館長、学芸員、歴史研究家、作家、歌人、コレクターなどから寄せられた言葉の一部です。私信ですので名前は伏せさせていただきます。