「確かな足跡」
2011年へ
まだ一年は終わっていませんが、振り返ってみれば、大変な日々が続いていたはずなのに、なぜか静まりかえった気配しか感じません。それは、今、私が毎朝、移ろいゆく自然に包まれながら、耳を澄ましても聴こえない歌声を聴き、目を凝らしても動かない動きを見、書けない言葉を探し、忘れた記憶を辿ることが一日を染め上げているからでしょうか。厳しい時代といわれる時代(とき)に過ごしながら、こうして穏やかな歩みで年の瀬に向かっているのは何かの恩寵に抱かれているという、このところずっと続いている感覚を思わずにおれません。その恩寵の源を辿れば、皆様のところに行き着くのです。
◇回顧
ギャラリーは永遠というわけにはいきません。しかし「後期の仕事 LATER WORK」として記憶される確かな足跡を留めたいと願っています。 ギャラリーの仕事を回顧すると、年明けは明石市立文化博物館での「中島由夫 The Son of the Sun」に始まり、展覧会の数が46回、そのうち初登場作家は10名でした。1月17日はTV「情熱大陸」で石井一男さんが紹介され、その一ヶ月前に刊行された後藤正治さんの「奇蹟の画家」とあいまって「石井一男現象」と呼んでいいほどでした。 ‘09年10月に亡くなった高野卯港さんの画集「夢の道」を刊行し、’09年に画集・画文集を出した武内ヒロクニ、高野卯港、須飼秀和と相次いで東京での個展が実現しました。8月には沖縄・佐喜眞美術館で松村光秀展が開催され、須飼秀和の毎日新聞夕刊連載もまもなく3年になり、その3年の連載を終えた武内ヒロクニは森下仁丹のPR誌「仁丹堂」の表紙絵がはじまり、同社のカレンダーにも起用されました。上村亮太さんは横田創さんの小説「埋葬」の装画を提供。新しくオープンした神戸オリエンタルホテルやロックフィールドとのアートプロジェクトにも関わらせていただいています。 ギャラリー島田のHPのアクセスは35万を超え、メールマガジンは1月4日に463号を発信、読者は1455名でしたが現在は570号で2487名。ほとんど三日に一本。受信者が1000人ほど増えました。画廊通信が12回。展覧会のDMへの文章。神戸新聞夕刊の「随想」に1月から3月にかけて7回書きます。発刊を予定している本の原稿など、「文士気取り」の日々です。
◇展望
こうしたこと全体を振り返れば、意欲的な仕事を積み重ね実績を上げてきたように見えますが、じつは私自身の関心は別のところにあり、そこのところがなんで続いているのか?と不思議がられる由縁です。 美術作品を売るという意識や上昇志向が希薄で、なんでも直言してしまうのは困った性格でなかなか直りません。 上ではなく、下を見、嫌なことは横を向き、でも一本の道をまっすぐに、ゆっくりと。 ギャラリーを年末に改造いたします。もう少し緊張感のある、そしてスタッフにとっては働き易いように。 仕事でいえば、杉山知子さん、内藤絹子さん、玉本奈々さん、古田美恵子さん、築山有城さん、渡邊敬介さんなど、昨年以上に新しい作家に数多く登場いただくほか、意欲的な企画をお届けいたします。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。