「闇鍋の底を掬う」
何かがぼくの中で爆発的に生まれようとしているのだけど、疲弊しきっている脳細胞が集中することを拒否して「眠りなさい」と誘うばかり。でも生み出すための材料だけは、でっかい鍋にどんどん放り込んでいく。野菜だって魚だって肉だって骨だって香辛料だってワインだって果物だって、手当たりしだいに煮込む。
ぼくが書こうとしている文章のことである。ぼくの周りに生起するもので、心にひっかかるものすべてを鍋に入れていく。書こうとしている作家たちのことは勿論、命と向かい合う日常、積み重ねてきた仕事、うれしいこと腹立たしいこと。なんでも。
時々、灰汁を掬うようにメールマガジンや通信に小出しにしながら、なおも煮込む。
最終的には本に纏めるためと、頼まれている講義のために。ぐつぐつぐつぐつ。よく煮詰まってきた。でもまだまだだ。
サルベージ
武内ヒロクニさんの「しあわせ食堂」が画文集として秋に光人社から出版されるのです。そこの若社長が高城直一さん。もとはといえば、石井一男展を東京で見て、私の仕事に興味をもってユニークな作家発掘物語を書くように依頼があって付き合いがはじまりました。渉りに舟とばかりに毎日新聞で3年間連載された「しあわせ食堂」を画集にすることを薦めたのです。話が進むにつれ高城さんがのりに乗って面白い本が出来そうです。そのための文章を5000字くらいで書くためにやみ鍋の底からヒロクニさんの素材だけを掬いあげるのに七転八倒といえば大袈裟ですが苦しみました。でも掬いはじめると構成の道筋がさっと見えて一気に書き上げたのです。ヒロクニさんも高城さんも喜んでくれました。
どこがユニークなのか?
連載150回のうち50人に絞りました。ヒロクニさん、私、高城さん、鈴木琢磨さん(毎日新聞の仕掛け人)で投票しました。
著名人の食べ物にまつわる思い出は昭和の歴史でもあり個人秘話でもあります。
ドーカーンとヒロクニ異色色彩挿絵50点プラス作品写真10点ほど。
「武内ヒロクニの世界」は私の書き下ろし。
ヒロクニさんはカットを幸穂里さん(奥さん)は制作裏話を50話書き下ろし。
220Pを超える面白本になりそうです。出版記念展はギャラリー島田で12/12~。引き続き東京銀座の2つの画廊で同時開催されます。
激辛どろスープ
大阪市大サテライトでの「アート・マネージメント講座」も闇鍋から激辛のお汁だけ掬って、濃厚なエッセンスを原稿を見ずに話しをしました。質疑応答とアンケートでは「刺激的でした」をいう声がたくさんありました。
自分を人体実験に供して困難な道を選ぶ
アートをマネジメントするのではなく自分の人生をマネジメントする
ファンドレイジングとはお金を集めるのではなく「志」を集め、繋いでいくこと
人生は4階建ての家。少数者の側に立て。
などと挑発するのです。
チャイルディッシュ
チャイルディッシュ(子どもじみている)という言葉をよく聞くようになった。この言葉は嘆きの言葉なのだけど、子どもには失礼である。子どもが子どもであるのは正しい。欲得にまみれた大人が単に自立できぬままの状態をチャイルディッシュという。駅や車中における馬鹿丁寧なアナウンス。至れり尽くせりの表示。道路工事などの過剰なガードマンの配置。新型インフルエンザが引き起こした茶番。「人生は4階建ての家」論で分析すればよく分かる。
一階には、楽して楽しくおればいいという本能的快楽派、この住人が圧倒的に多い。
二階には、快楽の永続を願う人(そのために努力する)
三階には、苦労の末に幸福を手に入れることに喜びを見出す人。
四階には、苦労こそが喜びである人が住む。
上の階にいくほど住人が少ない。極端に。
大多数の1階の住人こそが新聞の部数競争、TVの視聴率、消費動向を決め、経済を下支えし、マーケティングや世論調査という相当あやしい情報操作で政治や社会を方向づける。「もの言わぬ」「考えぬ」「受身のまま」であり続ける人々を3階、4階へを上がらせないことが大切なのだ。 ぼくはこの理論を文化の階層性と関連つけて話をする。
臍まがりめ!
偏見をもって見てはいけない。良心的なメディアもある、志のある政治家も企業家もいる。その通りです。しかし不特定多数を相手にし経済条件を優先する以上、多数を占める1階の住人をターゲットから外すことは出来ない。日本の大新聞がイエロー・ペーパーやスポーツ紙にどんどん近づいているのはそれが故であり、また1階の住人を生めよ増やせよと狭くなった部屋の増築にまで手を貸しているのである。タレントの泥酔事件や新型インフルエンザ報道の患者数の逐一報道の姿勢を疑います。マッチポンプ(自分で火をつけて自分でもみ消す)なのです。もちろん煽情記事だけではありません。しっかりした文化記事や特集もあります。要は「4階建ての家」を丸ごと紙面にして「クオリティー・ペーパー」を装っているのが日本の大新聞だと思って読むと腑に落ちます。TVは論外です。ぼくは限りなく上の方へ住みたがる人なのです。