2008.2
ギャラリー島田の30周年が静かに始まりました。気負いは少しも無いのですが、登場して頂く作家さんや、 楽しみに足を運ばれる皆さんのためにも、一つ一つの展覧会を丁寧に準備してゆきたいと思います。よろしくお願い致します。
年末に、心に残る文に出会いました。12月30日、日経新聞文化欄に秋山駿(文芸評論家)さんが書かれた「お酒が呑めず、残念」というエッセイの最後の段で自分の胃癌体験と奥様の帯状疱疹神経痛にふれ、「家内の痛さにじっと直面したこの2年ばかりで、私は、人間について、改めて新しく勉強し直すような気分になった。(略)こんな考えをゆっくり味わっているうちに、わたしは何か思わぬ発見をしたような心になった。それは、わたしがこれまで読んできた文学の中の、どんな深い思想も、どんな深い人間の光景も、その原形、というか、その根は、われわれを取り包んでいるごく平凡な日常のそこに、横で眠っているごく普通の人間のそこに、判然と有るものではないか、と」秋山さんの言っておられることを私も最近、強く感じます。私の中で強固なものが崩れ、そして何かが生まれつつあるようです。夜の集まりは、全て失礼させて頂いています。コンサートも歌舞伎も、飲み会も無縁の生活で、読書すらままならぬ日々です。しかし、こうした日常から、今まで思っても見なかった大切なことを学んでいます。直面する試練は試練として、受け止めながら、日々を大切に新鮮に過ごしたいと思います。 30周年の日々、そうした思いがギャラリーの仕事に反映して、皆さんと共にある時間を、豊かに過ごせればうれしいのですが。
正月感懐
穏やかな正月でした。病を得た家内の状態では家に集まることは出来ないのでホテル「クラウン・プラザ」に12月31日から1月2日まで泊まりました。27階の部屋から見ていると、ゆっくりと陽が落ちて帷(とばり)に包まれると街に灯りが点り、すっかり暗くなると夜空の星を数えられるようになる。そんな神戸の街は穏やかで、とても美しい。朝は、海の向こうに泉州の山々が薄明の中にシルエットで浮かび、雲が描き出す表情がまるで津高和一の絵のようです。空がチリアンパープルを刷いたように染まってくるのを眺めながら、来し方行く末、様々な想念に浸りました。やがて山稜が燃えるように輝いたと思うと一気に陽が上り額をまっすぐに焼くのです。壮大なシンフォニーが鳴り響くように感じました。こうした光景を三日間、飽かず眺めていました。昨年は長男夫妻、孫二人の住むNY:マンハッタンで私たちも過ごしたのですが、今は帰国し、海外協力事業団で緒方貞子さんの秘書チーム長を務めています。次男は建築設計を業とし、6月頃には彼が設計した家に移れるでしょう。それが家内の夢です。もう2年以上も待たされています。長男が大学時代までは、お互い、尖って喧嘩したりしていましたのに。いつのまにかみんなが社会に向き合うスタンスが揃ってきたのが不思議です。
緒方貞子さんのこと
私が最も尊敬する方です。すでに80歳ですが、世界レベルで考えてもあらゆる意味において超一級です。自己規律の厳しさ、本質を見極める能力、知性と見識、行動力、困難な状況にある人たちへの共感。41歳で国連に関わり、63歳にして再び国際政治の舞台へ登場。犬養毅を曽祖父とする家柄もありますが、現代を代表する、世界に誇る日本人です。全てにおいて眩しすぎる存在ですが、思いだけは学び、歩みたいと願っています。63歳といえば、2年前の私です。世間から「身を引く」という方へと流されている自分ですが、選びぬいた事だけはやり遂げなければと励まされます。その緒方さんに長男がお仕えするなどとは思ってもいませんでした。「緒方貞子という生き方」(黒田龍彦著・KKベストセラーズ刊)を繰り返し読んだ者として、緒方さんの厳しい仕事ぶりを思うと、これは大変な重責です。昔の親なら「お国のために死ね」でしょうが世界のためにしっかりやって欲しいですね。
●記念誌 30年目の透視図
30周年記念誌「30年目の透視図」を作りました。過去の記録というよりは「30年目の現在地に立って、今までの軌跡を振り返る」という意味で「30年目の透視図」と名づけました。アート・サポートセンター神戸の会員様、通信をお送りしているお客様には差し上げたいと思います。
同封の引換券で2008年2月末までにギャラリーでお受け取り下さい。
その他の方は¥1500(税込み)で販売いたします