2004.6「ヨルゲン・ナッシュ逝く」

ヨルゲン・ナッシュ逝く 2004年5月17日。 85才だった。

 ヨーロッパの前衛美術運動COBRA(1948~1951年)のリーダーだったアスカー・ヨルンの実弟で“北欧の反逆者”と呼ばれたヨルゲン・ナッシュ氏と夫人で同じく現代美術家であるリス・ツビックさんを初めて日本に招いたのが1988年5月。海文堂ギャラリーとポートアイランドの画廊ポルティコで展覧会をして、東京へ巡回させた。昨年6月にスウェーデンのナッシュ美術館とアトリエを尋ね15年ぶりの再会を喜び、作品も買わせていただいた。中島由夫さんを除いて最後に会った日本人となった。最後までやんちゃ坊主の面目を失っていなかった。ご冥福を祈る。 

わたなべゆうさんを訪ねて

 9月に個展をお願いしている、わたなべゆうさんのアトリエを訪ねる約束を1年も前にしていながら、山梨・河口湖、“遠い”ということで延び延びになっていた。いろんな用事を束ねて上京し、翌日を河口湖行きとした。東京では楽しみにしていたステーションギャラリーの難波田史夫展が終わったところで、がっくり。出たとこ勝負のアバウトな性格は死ななきゃ直らないみたいだ。夕刻には、みゆき画廊でギャラリー島田の作家である根垣睦子さんが個展を開催中で、そこで大学時代からの親友、竹野君と落ち合うこととなっている。それまでの4時間、銀座界隈の画廊を漂った。 銀座は広いし、またせ狭い。足は棒になったけど、なんとギャラリー島田にゆかりの画家三人とお出会いすることとなり、先方もビックリ。でも大手といわれるN画廊、F画廊などは、全く見るべきものは無かったですね。みゆき画廊は笹田敬子、日下部直起、稲垣直樹などうちの縁の画家の拠点。この真向かいのビルの4階に「しらみず美術」があり、ここは藤崎孝敏、木下晋、松浦孝之など、うちの作家と重なる。みゆき画廊では、どこから私の動向を聞きつけてきたのか画家の西村宣造さんが現れ、しらみず美術のオーナーが挨拶にこられ、さらに6月に神戸で絵本「地震のことはなそう」の原画展のヘルプを頼まれていて、其の件で電通のS氏、共同通信のN氏と協議、時ならぬ仕事場と化したのでした。 夜は竹野君のもてなしで根垣さん、宣造さんと鴨づくしでしたたか飲みまた語った。
 ホテルを8時にはチェックアウトし、新宿へ。9時10分の中央高速バスで約2時間、 河口湖へ。生憎の雨模様で、新緑も疎ら、富士山も全く見えない。本も読めない、景色も見えない、いきおい想いは自分へと向かっていく。震災から9年、独立から3年半。時代の中の座標。仕事の中の座標。漂っているのは我なのか彼なのか。朦朧とした視界。 駅からタクシーで湖畔を半周、指定された場所に下りると、わたなべゆうさんが迎えに来てくれていた。初対面だけど、ゆうさんは白い髭とキャップ(帽子)が目印だといい、私は白いジャケットが目印だと電話で話したのだけど、雨で人影もない湖畔では間違えようもなかった。ゆうさんについて100メートルも歩けば倉庫のような大きなゆうさんのアトリエだった。この日は5月だというのに肌寒くストーブを焚いてくれて、初対面のゆうさんの話を聞いた。重厚で巨大な作品に囲まれながら、もう何度も会っているかのように話した。若い時に、ここ川口湖畔の実家をでて、5年間くらい日本中を住所不定で放浪し、捜索願が出されたという。その理由は知らない。私は、他人の事情に踏み入らない。こじ開けない。分かる時を待つ。他人をそう簡単に分かった気になってはいけない。近くの蕎麦屋で昼食をとってまた話し込む。
 ゆうさんの作品は、氏が歩き、踏みしめ、感じた「風土」というシリーズと、自然の恵み、身の回りの風物をテーマにした「Small Collection」というシリーズがあり、手間ひまかけ、納得のいくまで削り、塗りを繰り返したもので、マティエールは氏自身の生の歩みのごとく重層的であり、複雑である。その優しさの中に揺るぎない重い核がある。
3時のバスは満席だった。新宿、東京、神戸と乗り継いで10時半帰宅。
再び、東京へ

 16日からの海外への旅を前に大童(おおわらわ)の日々。11日に上京予定。今年11月に松村光秀展を企画していただく兜屋画廊へ松村先生をお連れし、しらみず美術での藤崎孝敏展に立会うためである。それにベン・ニコルソン展も見たい。兜屋さんは、昨年から決まっていたのですが、場所が移転し、かつスペースも小さくなったので迷っていたのですが、前回、新しい場所を拝見し、折角のお誘いですので、予定どおりお願いしました。 藤崎展では、藤崎さんを撮ったドキュメンタリー「たれそかれ」(高原浩人監督)が発表されるのが楽しみです。
PC真理子機嫌なおる

ご心配をかけたPC真理子が、専門家二人の往診を得て、生き返った。やれやれ。

乾千恵さんの書

坪谷令子さんの個展「いのちからいのちへ」の時に一人の車椅子の少女があらわれた。重度の障害を持ちながら書を書く。それが素晴らしい。千恵さんの書が「こどものとも」(福音館)から「月・人・石」と題してでている。素晴らしい。谷川俊太郎さんの文、川島敏生の写真も感動的。千恵さんが、墨を滴らせた大筆を持った後姿の写真が圧巻です。静かな勇気を貰いました。どれが気に入ったと書こうと思って見直したけど、どれも好きだ。こんな素敵な本が¥410とは信じられない。(ギャラリー島田で販売中)