□■□2015年5月
Gallery SHIMADA & Art Support Center KOBE
Info―1091号
PARASOPHIA(その3)
1 蝙蝠日記 農民ダ・ヴィンチ
2 展覧会案内 大塚温子展
3 火曜サロン 室内合奏団 THE STRINGS「知られざる名曲と作曲家の軌跡」
4 今日の言葉 未来は空中に浮かぶものではない
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蝙蝠日記 農民ダ・ヴィンチ
いつまでもPARASOPHIAを書いているわけにはいきませんね。これで最後です。
まずは美術館に入った大展示室の中央に高さ15mの青竹約300本で組み上げられた六
角形七段の塔(バコダ)を見上げる。蔡国強(ツァイ・グオチャン)の祝祭空間、そこに
カラフルな玩具や旗、絵、雑具が雑多に取り付けられ、凧がゆらゆら。会期中にさらに子
ども達が飾ったという。その周りを中国の農民が壊れた農具や機械部品で作った不細工な
人形がカタカタと動く。バコダの下から照明されたシルエットが天井に映し出されていて
これにも見とれる。
電気仕掛けの安物のブリキロボットが筆を持ってアクションペインティング。そして
この作品がSHOPで販売されています。これ誰の作品だろうか。
その隣の部屋ではジャン・リュック・ヴィルムートの「カフェ・リトルボーイ」はだれも
が落書き感覚でメッセージを書き込んでゆき最初の広島原爆投下のメッセージは上書き
されて作品が判読不能に変容していく。
「ダ・ヴィンチ」も「原爆」も無邪気に大衆によって上書きされ意味を失い、ただただ
表層へと流れる。それも表現者の隠れされた意図なのか肯定なのか。
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地下では「美術館の誕生」を資料とスライドショーで見せている。しかし第2次大戦(敗
戦)後、米軍に接収されていたことを何より雄弁に語るのは靴磨きの看板「SHOE SHINE
SERAVICE」 NO TIPPING CASH ONLYなどの文字であり82年の歴史を語るのは地
下へ至る、欠けたり割れたりした階段の踏み石でそれが美しかった。
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倉智敬子+高橋悟(Keiko Karachi & Satoru Takahashi)のユニットは昨年の横浜トリエ
ンナーレで出会い強く記憶に残っていました。横トリでは《法と星座・Turn Coat/Turn Court》
今回は《装飾と犯罪・Sense/Common》と題されていてまず謎を投げられます。横トリでは
大法廷は赤で組み立てられ首座には大きなハンマーが振り上げられ「ドーン」とハンマーが
判決を下すように鳴り響きます。誘導されるように裏側に周りこむと大きな鏡がはめ込まれ
テニスコートが私たちを映しこんでいます。そこを抜けると二つの鉄格子の檻が。
PARASOPHIAは法廷は白で組み立てられ、通り抜けた広場は石庭を思わせ、白い海図が
配置された先は白い鉄格子。背後で審判のハンマーを聞く。鏡で区切られた「こちら」と「あ
ちら」の境界。どちらも簡明なコンセプトの先は鑑賞者たる私たちがどんどんと自問し試行し
検証していく場となる。表面的には「最後の審判」と「刑罰」の間にある私たち自身の審問
を促され、その答えは自ら出す以外にすべはない。このユニット関連の[レクチャー]が上
野千鶴子「おまかせ民主主義からの脱却」というのも極めて分かりやすい。
「地球的規模で不穏なナショナリスムやナンセンスか進行する中、制度・国境・人種・ 性
別を越えた新しい市民主体の活動について考える」という倉智敬子+高橋悟の言葉などは
今、私が抱え、苦しみながら書いている「草地賢一:神戸からボランティア元年を拓く」
の主題そのものと言っていい。
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五十嵐太郎による「愛知トリエンナーレー揺れる大地」(2013)や森村泰昌による「横浜
トリエンナーレ 華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」そして河本信治の
「PARASOPHIA」それぞれがアーティスティックディレクターの明確なコンセプトがあ
り、それによってアーティストが選ばれ、その回答を作品として参加する。私たちもまた
受身の鑑賞者・消費者としての客体であることに止まらず自分の存在を問い直しながら主
体者として評価する。まさに「おまかせからの脱却」を迫られるのです。
長い論考「歴史の問い直しが多様化し造形感覚は混迷」を読ませてくださった吉村良夫
さんは三日間通われたそうですし、事前にブックレットや資料を下さったSさんは二回、
私はたんにメルマガで書くために何度も何度もPARASOPHIAを反芻しています。
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そうした行為そのものが同意や反撥を促しながらアートがもつ本質的な力を示している
と思います。
翻って「神戸ビエンナーレ」はどうでしょうか。
前回も相当な批判にさらされながら、相も変らぬラインナップで改良への努力はしている
ものの改革への姿は見えてきません。
伝説のギャラリー「北野サーカス」の福野輝郎さんが兵庫県立美術館でのトークでこの
ことを指して、絞り上げるように「神戸のアーティストは恥ずかしくないのか」と大声で
喝破しました。
第一回の「神戸ビエンナーレ」を私が批判したことに起因する様々なことは、芸術文化
の役割からは最も遠いことです。
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私も福野さんと同じ事を問いたいと思います。
PARASOPHIAは今日が最終日です。HPです。
http://www.parasophia.jp/
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展覧会案内
大塚温子展 14日まで
大塚温子の三回目となる個展。遠い記憶を古層を掘り当てるように誠実に辿ってきた
大塚が、まるで蛹が羽化(emerge)したように変容(metamorphose)してみせた。解放された線と踊る色。
新しい視座をえた喜びが素直に伝わってくる。さあ、旅立ちの行方はどこへ。
会場風景をご覧下さい
http://gallery-shimada.com/blog/
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第290回神戸塾
火曜サロン 室内合奏団 THE STRINGS「知られざる名曲と作曲家の軌跡」
ギャラリー島田×ザ・ストリングス 室内楽コンサート2015
「知られざる名曲と作曲家の軌跡」
ザ・ストリングスのモダントリオ《ヴァイオリンとクラリネットとチェロ》
2015年5月12日(火)、19時開演(18時30分開場
入場料:1,500円《全席自由》(ASK会員1,000円)
プログラムなど詳細は下記をご覧ください。
http://gallery-shimada.com/salon/?p=217
■■今日の言葉
戦後ドイツと日本はともに敗戦国として出発した。やがて経済大国となったことは共通し
ているが、国のありようは随分と異なっている。(略)
政権が変わっても脱原発という流は不変だ。今、ドイツの総発電における再生エネルギー
の割合は4分の1を超えている。
さらに日・独の大きな相違は財政状況であろう。ドイツは赤字国債の発行ゼロを実現し
ているのに対し、日本の国債残高は800兆円を超えようとしている。
消費税率はドイツが19%(食料品などは6%)と高いが、財政破綻は国の存立を脅かすと
いう国民的合意の有無に由来するのであろう。(略)
未来は空中に浮かぶものではなく、歴史に直結してあるものだ。過去の自省と清算の上
に未来はある。異なる意味で切実に、もうひとつの敗戦国の戦後70年に学ぶべきものは
大いにある。 後藤正治 神戸新聞「指針21」2015年5月8日
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公益財団法人「神戸文化支援基金」(こぶし基金)は兵庫・神戸の文化の土壌を
豊にする芸術活動に助成しています。
http://www.kobushi-kikin.com/
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■発行元 ギャラリー島田・アートサポートセンター神戸