粘菌者の王国

実生活においても粘菌類に執着する大竹茂夫氏は幻視者にちがいない。粘菌。湿った枯木などに生じる茸の類。マツタケを筆頭に人種の数ほどにも多様で、その魅力の迷宮に出口はないらしい。
大竹氏の描く粘菌のリアリティーはみるものを幻視の迷宮の虜にしてしまう。でも、実は粘菌の寓意は、大竹氏が仕掛けた、絵画が本来もっている官能的ともいえる蠱惑に誘い込むトリックにすぎない。
魅力あふれるオータケ・キノコ・ワールドへようこそ。

<超正常刺激>
どこへ行く時もメモ用紙を携帯している。電車の座席でボーッとすわっている時とか、ぼんやりと講演などを聞いている時とか、突然、絵のアイディアが浮かんだ時に、急いでメモしておくためである。十秒ぐらいで略画の形でメモしておいて、あとからていねいに描き直すのだが、何度も描き直して、結局最初の線が一番よかったりすることが多い。そんな風に自然にアイディアが浮かんでくるまで待っていられたら楽なのだが、個展がせまってくるとそうものんびりとはしていられなくなる。無理やりアイディアをしぼり出すのである。昔のメモを引っぱり出してきて組み合わせてみたり、手当たりしだいにそこら中の本や画集をめくっては何か利用できそうな物はないかとさがしまわる。そうこうするうちに、一つの単語からインスピレーションがひらめいて絵が浮かんでくることがある。今回使った「超正常刺激」という言葉は、昆虫採集の本の中で見つけた。オレンジ色の地に黒い斑点のついた翅根を持つミドリヒョウモンという蝶がいる。この蝶の雌と同じ色、形の模型をひらひらさせると雄が飛んで来て模型の後を追うが、四倍ぐらいの大きさでオレンジと黒の単純な縞模様の円筒を回転させると、本物そっくりの模型よりも雄がよく惹きつけられる。こういう現象を超正常刺激というらしいが、今回は蝶をキリンに置き換えて絵にしてみた。考えてみると絵という物は、必要な要素を単純化し、強調しているから実物よりも人の心を惹きつけるので、これも超正常刺激と言えるかもしれない。私などはばか正直に何でもかんでも描き込みすぎるところがあるので、もう少し超正常刺激の研究が必要だろう。
大竹茂夫
最近のギャラリー島田での個展記録

2002年4月27日(土)~5月9日(木)大竹茂夫個展「寓話の変貌」
2005年11月12日(土)~11月23日(水)“菌生代”
2008年7月12日(土)~7月23日(水)“粘菌者の王国”

■略歴
1955 神戸に生まれる
1979 京都市立芸術大学美術学部卒業
1981 同校・美術専攻科卒業
文化庁芸術家国内研修員
■個展
青木画廊(東京)1982/86/90/91/95/98
江寿画廊(京都)1988/90/97
アートスペース虹(京都)1992/94/96
海文堂ギャラリー(神戸)1993/95/99
ストリートギャラリー(神戸)1997
■グループ展など
「投げられた石」展(京都市立美術館)1981
京都市美術選抜展(京都市立美術館)1987/91/93
楽しい現代芸術展(芦屋市立美術博物館)1994
第40回安井賞展(セゾン美術館)1997
TIAF東京インターナショナルアートフェスティバル(東京国際フォーラム)1997
金山平三賞記念展(兵庫県立近代美術館)1999
■出版物など
1988「一流の名料理101品」(主婦と生活社)装画
1989 「エデンの東」(劇団昂公演・三百人劇場)ポスターパンフレット等
1992 スタイリング2月号(スタイリングインターナショナル発行)にて特集
1993~95 本の情報誌「Do Book」(日販発行)表紙担当
1996 「シーラという子」トリイ・ヘイデン著(早川書房刊)表紙
「タイガーと呼ばれた子」トリイ・ヘイデン著(早川書房刊)表紙
1997 「よその子」トリイ・ヘイデン著(早川書房刊)表紙
「親を殺した子供たち」エリオット・レイトン著(草思社刊)表紙
「檻のなかの子」トリイ・ヘイデン著(早川書房刊)表紙
「窓ぎわのベット」M・スコット・ペック著(世界文化社刊)表紙
1998 「幽霊のような子」トリイ・ヘイデン著(早川書房刊)表紙
「愛されない子」トリイ・ヘイデン著(早川書房刊)表紙
1999 「シーラたち」(早川書房刊)表紙
「ひまわりの森」トリイ・ヘイデン著(早川書房刊)表紙